廃屋の菜津美(4)
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男の命令である。
静かだが予断を許さぬ命令であった。
菜津美の頬にポッと欲情の色が射す。
ぞくっとするほどに喘ぎを溜めた口元からは
はしたなくも桃色の舌先をチロチロと覗かせている。
まるで廃屋に棲む淫獣が同化したかのような
それほどの淫猥さであった。
「パシッ!」
男が左頬を強く打つ。
「牝豚になるには早過ぎる」
鋭く静かな視線を放ちながらの欲情を咎める言葉だった。
「パシッ!」
右頬も打ちつける。
打たれたばかりの頬が朱らみ
見る見る涙で濡れてくる。
裸を命じられただけで情欲に打ち震える・・・
菜津美自身、どうすることもできない性なのだろう。
濡れた頬を拭おうともせず
頽れながら虫喰いの茣蓙に額を擦りつけ
悔悟に囚われた罪人のように平伏した。
「申し訳ございません、ご主人様」
「どうかお許し下さいませ」
平伏して情欲の瞳を隠し、謝罪の言葉を述べる姿は
上品で慎ましやか
まるで貴婦人の所作である。
その貴婦人を男が真上から静かに見下ろしている。
「いいえ、いいえ、心得違いをいたしました」
「決して、お許しにならないで下さい」
「牝豚めに、どうか罰をお与え下さいませ」
真上から見下ろされただけで
ただそれだけのことで
貴婦人の所作に淫欲を溜め
マゾヒズムを呼び覚ます懇願に変わっていた。