廃屋の菜津美(6)
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つい先ほどまで
這いつくばって男の足を舐めしゃぶり
思う存分味わっていたとは思えない
凛とした美しい立ち姿であった。
「菜津美の立ち姿が自慢なんです」
「きっとお気に召していただけると思いますよ」
男の脳裏に菜津美の夫松波の言葉が甦っていた。
卑屈な様子で
上目遣いに喋る松波の心を思い遣る。
卑屈になるのも無理はなかった。
彼もまた菜津美同様
正真正銘のマゾヒストだったのである。
そして哀しいことに
誰よりも深く菜津美を愛していた。
結婚後,
愛する妻のマゾヒズムが顕在化して
夫婦して同じ性癖であることが分かったときの
その精神の錯綜は知る由もない。
「以前にも増して、より一層愛しくてなりません」
不思議なもので
そこだけは卑屈にならず
自信たっぷりな様子で答えてくるのである。
それもまた
マゾヒストの生み出す自虐観なのかもしれない。
ただ菜津美はどうなのか?
果たして夫を愛しているのだろうか?
その答えを見い出せないうちに
ワンピースのボタンをはずしてハラリと脱ぎ落とした。
手馴れたものである。
身に着けていたことさえ忘れさせる
鮮やかな脱ぎっぷりと言えようか。
しかも、真っ直ぐに見つめ返しながら
至福の笑みさえ浮かべている。
まるで自身の脳裏を覗き込み
自虐の喜びを反芻しているかのような
あるかなしかの微笑であった。
やはり、松波のことなど眼中にはないのかもしれない。
それに廃屋は菜津美のテリトリーである。
この空間に踏み込んだ途端
松波の妻とは別人格の菜津美が出現しているのだろう。
また、そのようなスリリングさを感じさせるところが
この女の一番の魅力になっているのだと思う。
紫色のブラジャーとパンティ姿である。
うなじに残る噛み痕の色合いと奇妙に一致しているのが
なぜか必然だったような気がして
狭小ながらも、男は満足感を覚えてしまう。
華奢な体形に
結構豊かな乳房がブラジャーのレースを盛り上げている。
決して、アンバランスというわけではない、程良い大きさ。
さらには、ウェストから臀部にかかるラインが美しい。
菜津美もそれを意識しているのだろう。
立ち位置の微妙な角度がそれを物語っていた。